生命リズム
「Life Rhythm」
邱愈茗
2024年4月2日(火)-4月7日(日)
11:00 - 18:00(火-日曜)月曜休館
©邱愈茗
もし音が自然環境、人工環境、伝統音楽から取り除かれたらどうなるだろうか。単なる聴覚的要素である音が、情報を伝達する上で他の感覚と相互作用し、知覚体験を拡大したらどうなるだろうか。
今回の展示作品は、視聴覚情報を統合する複数の試みでもある。音と自然の形の探求は、本展の作品の大きな特徴である。私たちは、技術的な力が常に進化し、人々が受け取る情報が断片的な傾向にある環境に生きている。情報を伝達するために、技術革新がもたらす他の知覚体験もまた豊かになっている。また、聴覚や視覚情報を伝えるメディアの表現時間も短縮される傾向にある。本展の一連の作品は、いずれも伝統音楽のより複雑な音を調べ、視覚的知性と組み合わせることを意図している。聴覚と視覚の融合の多様性と重要性を意識している。聴覚的なリズム、メロディーの対比、感情の重なりは、感覚の拡張と融合として捉えられている。
今回のテーマは「生命のリズム」である。知覚的な表現を通して、生命や自然環境の「生命のリズム」をより直感的にする。このような作品の試みによって、人々が自然の中の「リズム」の存在をより直接的かつ容易に感じ取ることができるようになり、東洋美意識が語る自然観が現代社会に受け入れられるようになることが期待される。
©邱愈茗
アーティスト:
邱愈茗
中国四川省隆昌県生まれのデザイナー。2017年サバンナ工科芸術大学卒業、2021年東京藝術大学大学院研究生修士課程修了、2023年武蔵野美術大学大学院基礎デザイン研究科修士修了。現在、国立音楽大学の博士課程に在籍している。ICMA(国際コンピュータ音楽協会)会員、JSSA(芸術音楽創作学会)会員。
彼は学部時代から、モーショングラフィックスと視聴覚情報の融合方法を中心に研究してきた。オスカー・フィッシンガー(Oskar Fischinger)の『an Optical Poem』というビ ジュアルミュージックとの出会いを機に、視聴覚要素に関する表現を探求し始めた。ニューメディアが次々と生まれている今、デザインとアートの表現はより多くの知覚体験を提供できるようになった。一方で、メディアの進歩の結果、表現形式も多様になった。それに伴い、芸術家やデザイナーが作品制作において、視覚要素と聴覚要素との融合により、見える、見えない物事の表現方式における選択肢も今後一層多くなると思われる。このような考察を踏まえて、視覚から聴覚に至る発散や拡張を、作品を通して知覚的補完と感覚間の相互作用に基づいて表現することを計画している。
彼は日本に来て、自分の知覚感受に基づき、大学4年の記憶の中の Savannah という町 の印象により、『Memories in Savannah』(2018-2022)という作品を制作した。知覚の拡張を中心に制作された試作と言える。大学四年間で撮った写真や映像から纏めた視覚要素をグラフィックスコアとして扱って、音響空間を試みた。
その後、彼は生け花の造形から感じた抽象的な「リズム」をグラフィックデザインで具象化した。植物の造形は、数え切れないほど、極めて美しいものであり、自然の芸術と言っても過言ではない。花びらの形、葉っぱの張力、茎の延々と続く感覚、これらの造形は生きるための形であり、生命力の靭さを見せている。ここ数年で現代音楽を研究し、「すべての音が音楽になれる」という理念に基づき、数曲を作曲した。伝統的な和声などの枠を超え、音の強弱を強調し、時間とともに繊細な変化に着目しながら、拍子さえも使わずに、自分の表現方法を探究してきた。
修士課程では現代音楽を学び、「すべての音は音楽になりうる」という原則に基づいていくつかの作品を作曲した。伝統的なハーモニーなどにとらわれず、音の強弱を強調したり、時間の経過による微妙な変化に注目したりしながら、独自の表現方法を模索した。彼はタイムラプスを使い、花が「咲いてから萎み始める」期間を撮影・記録している。花のしおれた姿は、彼にとって満開のときよりも生命力が強く、花の命が終わりに近づいていることを感じさせる。花びらは生と死の間を行き来しており、彼はこの時期の花の「生命のリズム」をとらえ、それを視覚的に表現している。
彼は伝統的な音楽からさらに洗練した音を研究し、デザインとの融合を目指す。音は情報を伝達する時の媒介の一つである。本研究によって、自然における「リズム」の存在を知覚でき、現代社会における日本的自然観の受容が高まり、人々に訴える新たな力を持つ多感覚的な作品の創出が期待できると考える。
演奏記録:
「PERSONA、フルートとチェロのための」:
ナショナル・オペラ・シアター、ニューヨーク、アメリカ、2022年;
邱愈茗音響作品展、東京、日本、2023年。
受賞:
「生命リズムにおける視聴覚表現」:
武蔵野美術大学、学科賞、東京、2023年;
ICMC2023、インスタレーショントラック選考、アメリカ、2023年
IEMC2023、入賞、杭州、2023年;
OIMC音楽コンクール、入賞、東京、2023年。