展示風景
「新しい人生」は、中国アーティストの馬延紅が日本で開催された初の個展です。2020年末に、彼女が横浜に移住して以来、文化環境の変化や人生の転機に伴う、新しい創作方向を模索する努力を表現しています。
展覧会のタイトル「新しい人生」は、トルコのノーベル賞作家オルハン・パムクの同名の小説から借りたものです。この作品は、2007年に中国に翻訳されてから一時的に非常に人気がありました。小説の主人公は一冊の本に導かれて、元の生活を捨てて、新しい世界と新しい人生を追い求める旅に出ます。ある意味では、馬延紅と彼女の芸術的な転向は、「新しい人生」の別のバージョンとも見なされます。
2002年、馬延紅は(中国)中央美術学院の油絵学科を卒業し、学院を習得した熟練したリアリズム技法で、大胆かつ先駆的に自分と同年代の女性の友達の身体を描きました。これらの等身大の作品は、抑圧や偽装がなく、セクシー、青春、自信が溢れる女性の身体を表現しました。当時の中国の現代肖像の図譜にないテーマで、すぐに幅広い関心と論争を呼び起こし、アーティストの評判を築き、その後の創作の基本的な方向性が開きました。2003年、馬とほかの中央美術学院を卒業した友人が「N12」グループを結成しました。当時、ほとんどアートマーケットや商業ギャラリーがない中、このグループは完全に自分たちの力で資源を集め、自己組織化された展示会の形で芸術的な発声を実現しました。このグループの12人のメンバーは後に中国の「70後」(70年代生まれ)アーティストの最も有名な代表者となり、それぞれ本世紀初頭の中国の現代絵画の重要な存在となっているでしょう。
馬延紅の絵画の主人公はほとんどが女性です。最初は彼女自身とアーティストの友人たちから始まり、その後、さまざまな年代の流行文化のスターに転換したり、彼女が集めた特定の歴史的な時代の人形、そして幼少期の記憶からの小学校の集団写真まで作品のテーマを広げました。彼女は自分の創作がより直感に従っていますが、この直感は常に彼女を身近でよく知られた人や出来事から、言及されていない共通の感情や変化する時代の社会心理の微妙な側面に導きます。彼女は繊細で鋭いフォトリアリズムの技法を用い、イメージとシーンを一つ一つ決定的な瞬間に融合し、現実主義の欲望コードと見なすことができます。さらに重要なのは、これらの変容の手がかりには、人間が成長から成熟へ、女性が遊離から社会的な期待や役割を担うことを余儀なくされる運命の軌跡が絡み合っているということです。馬にとって、創作活動の根本的な動力は後者になり、避けられない現実の問題です。
2020年、馬延紅は家族とともに横浜に移住しました。彼女にとって、アーティストとしてだけでなく、女性や母親としても、この転機は決定的なものでした。しかし、より大きな転換は彼女の創作活動で起こりました。新移民として、未知の環境で人生を再構築する難しい試練に直面しながらも、馬は絵画に戻ることを選び、創作を再び生活の中心に移しました。彼女は毎朝子供たちを学校に送り届けた後、横浜の黄金町アートエリアの小さなスタジオで夜まで絵を描き続け、家に帰って家事をするような生活が始まり、そして絵画も完全にスタイルの転換を始めました。馬は、二十年以上にわたって彼女に名声をもたらした慣れ親しんだフォトリアリズムを諦め、装飾的な平面的表現法を試み始めました。彼女は主観的、コントラストやリズムを強調した色彩の組み合わせ、簡略化された形式、そしてはっきりした輪郭を用いて、想像力と流行文化の特徴を兼ね備えた女性の身体を描写しています。
これらの絵画に登場する身体は二重性を持っています。欲望の投影相手としての甘い肉体(時にその異様さが意図的に強調されることもある)と不協調で奇妙に見えるようなアニメキャラクターの目が描かれています。この記号化された目はまるでここに属さない別の世界から来たかのように、外部から見つめ、遅延し、そしてそれらの古くからの欲望をからかいます。さらに、より根本的な考え方も作動しています。色彩と画面構成によって、意図的に緊張した境界に押しやられ、まるで内部からその欲望記号の現実性を疑い、分解し、相殺しようとします。これにより、人物、構図、および全体としてのキャンバスが不均衡で対照的な領域に分割されます。新しいイメージは単純で鮮明でありながらも曖昧で複雑です。おそらくこれは、その中に二重の視差があるためかもしれません。馬は、なぜ身体を描くことにこだわっているかを語ることがあります。それは、「身体が最も直感的に私たちの生存状態を示すことができるからです」。スタイルが変わっても、彼女は創作を駆動する最も根本的なテーマに忠実です。
これらの鮮明な対峙が混在しているところから出発し、馬延紅は新しい観察、変換、精練の方法を探求しています。それは断固としたわかれから始まりますが、続くのは変わらぬ内面の探求の原動力であり、生活に対する感受性と省察です。まるで「新しい人生」の物語のように、人間が過去を捨て、新たな旅に出ることを決意するとき、これは外部の環境が急激に変化し、内なる生命が繭から脱出する衝動を生むのか、それとも内なる熱望と執着がいつも止まることなく、いつかその熱望が爆発し、確立された脚本を書き換え、人生の方向を変えるのか、という問いです。馬延紅にとって、生命、生活、そしてアートはどれも切り離せないものであり、彼女は自分が見て感じたものに忠実であり、それを理解し、掴む努力を惜しまず、自分の人生を掌握するかのようにします。
——李佳(キュレーター)
©️ Ma Yanhong (Photo&Video: Nie Zewen)
アーティスト:馬延紅(Ma Yanhong)
インディペンデント·アーティスト。
中国陝西省宝鶏市に生まれ、中央美術学院油絵科を卒業、学士号を取得。
現在は横浜と北京に在住。中国の先駆的アートグループ「N12」のメインメンバー。
キャリアの初期は、主に等身大のヌードの女性や少女の肖像を描いた油彩画で知られる。 個展及び個人プロジェクトには、「小馬森林」、北京西五芸術中心、2007年;「馬延紅近作展」、ニューヨーク鬲豪士当代画廊、2008年;「芸術家肖像」、北京博而励画廊、2012年;「柔膚と小学」、北京西五芸術中心、2016年;「オレンジは唯一の果物ではない」、厦門兌山美術館、2017年;「尋娃記」、上海朵雲軒美術館、2019年、が含まれる。
作品は中央美術学院、中国美術館、マカオ美術館、ルイジアナ現代美術館、イスラエル博物館、シアトルのBrvan Ohnoギャラリー、北京公社ギャラリー、台北の大未来ギャラリー、北京民生現代美術館、南京の百家湖美術館などで展示、収集されている。
キュレーター:李佳(Li Jia)
インディペンデント·キュレーター、物書き。現在は北京在住。
北京大学で法学と経済学の学士号を取得、同大学の芸術学院で美術史の修士号を取得。ギャラリーペース北京の副ディレクター、泰康スペースのシニアキュレーターなどを経て独立。最近計画された展示会には、「歩行ガイド」(長征独立空間、北京、2023年)、「空間三種@第1回雲彫刻学術招待展」(松美術館、北京、2023年)、「張曉剛:蜉蝣」(龍美術館、上海、2023年)が含まれる。2017年に第1回Hyundai Blue Prize Creativity創造力賞を受賞し、2021年にアジア文化協会(Asian Cultural Council)の奨学金を受賞し、2022年から2023年までThe De Ying Foundationの第1回キュレーションスカラーを務めた。