かおへの平手打ち理論
The Face-Slap Theory
顔磊
2024年4月13日(土)~5月12日(日)
11:00-18:00 [火~日曜] 月曜休館
キュレーター:蘇偉
Curator:Su Wei
中国のアーティスト、顔磊の新しいアートプロジェクト "The Face-Slap Theory" が、日本の東京にあるアートスペースARTiX³で初めて展示される。このプロジェクトのキュレーターは、中国の現代美術史の研究に取り組む学者の蘇偉である。展覧会では、 インパクトに満ちた彫刻とインスタレーション作品を通じて、政治と経済が芸術創作と出会った時に、芸術が影響を受けながらも影響力を持つ媒体となること、そしてアーティストと観客がどのように対話を展開するかについて探求される。
©顔磊
1985年9月22日、アメリカ、日本、イギリス、フランス、そしてドイツの5カ国がニューヨークのプラザホテルで「プラザ合意」を結んだ。この合意では、外国為替市場への共同介入が決定され、過度のドル高を是正するための協調介入が行われることが合意された。この協定により、アメリカは輸出を促進し、国内の赤字や経済成長の課題を緩和することを期待した。一方、日本は経済が過熱していた状況下で、この協定を通じて海外市場をさらに拡大することを望んでいた。政府による介入による貨幣価格の調整は経済界で議論が絶えず、その背後での政治的な動きや駆け引きは今なお議論の的となっている。
よく言われるのは、この協定がアメリカの策略であるというものだ。1980年代は日本が製造業や輸出によって経済を急速に成長させた時代であり、日本は世界でも最も重要な経済体の一つとなった。しかし、この合意の実行によって日本円が徐々に上昇し、インフレを引き起こし、90年代の日本の経済バブルを引き起こした説もある。バブル崩壊後、日本経済は長期間のデフレに陥り、未だに完全に脱却していないようだ。ある人々は、経済学者ポール·クルーグマン(Paul Krugman)が2008年のアメリカのサブプライム住宅ローン危機時に政府に市場を救済するよう提案した「かおへの平手打ち理論」(the face-slap theory)を意図的に利用し、これが日本経済が大きな夢から目覚めてビンタを食らわせる状況を要約していると主張した。中国語の文脈では、この流用は明らかに、中国が次の日本になる可能性を示唆または警告している。
颜磊は、この論争の的となる経済事件を利用して、自身の一貫した創作方法を続ける。彼は、今日の保守主義が広まり、地域間の対立が絶えず勃発する環境で権力ゲームのルールとその幻覚や心理的傾向を探究しているが、完全に批判的なわけではない。彼は3Dプリントでシートマスクを着用した、都市中産の雰囲気が溢れる女性モデルの頭部を制作した。そのシートマスクには「プラザ合意」という文字や、署名した国、署名した日付が印刷されている。展示会場では、「プラザ合意」の原文が印刷された実寸サイズのシートマスクも置かれている。20世紀の国家間、特に国境を越えた政治的同盟と対立が、今日も残響のように繰り返されている。それは政治手段として広く使用されているが、今日の地域間や民族間の対立を解決することができず、また自身の影響を正確に説明することもできない。そして、ある発端者にとっても、それは論理の矛盾に満ちた、自己証明の難しいものである。この無表情なモデルの頭部は、地政学的なコンプレックスから飛び出すように、「プラザ合意」やいわゆる「かおへの平手打ち理論」と結びつけられている。我々は、この作品を見て、人間中心の批判的視点を見いだすことができず、アーティストが作り出したより古典的な観念主義に近い「現実-超越」の表現に頼るしかない。それを詩的なものに洗練させることは、現実のズレや逆転から生まれるかもしれないし、現実に没頭した状況や立場の選択から生まれるかもしれない。
——蘇偉(キュレーター)
アーティスト:
顔磊(ガン ライ|Yan Lei)
1991年、杭州浙江美術学院(現在の中国美術学院)を卒業し、中国で生活と仕事をしている。颜磊は中国の現代美術界で独自の道を歩み、独立した視点で、絵画、彫刻、インスタレーション、ビデオ、パフォーマンスなどさまざまなメディアを通じて、芸術制度内に存在する権力、競争、芸術価格の価値などの問題を探求し、明らかにしています。颜磊の作品は曖昧なトーンを持ち、多重な矛盾や価値観の衝突を表現し、一方で現代美術の創作に存在する様々な問題に対するアーティストの警戒心や考え、そして彼がその中で感じる孤独や平凡な現実に対する複雑な感情を反映している。
彼はイスタンブールビエンナーレ、広州トライエンナーレ、サンパウロビエンナーレ、光州ビエンナーレ、上海ビエンナーレ、ヴェネチアビエンナーレ、リンツ·ニューメディアアートフェスティバルなどの多くの国際的な展覧会に参加した。香港アートセンター、ドイツのZKM、北京のUCCA、アメリカのコロラド州アスペン美術館などで個展が開催された。2002年には中国現代アート賞(CCAA)の最優秀アーティスト賞を受賞し、2007年と2012年にはカッセルのドクメンタに連続して招待された。
キュレーター:
蘇偉(ソ イ|Su Wei)
北京に在住するキュレーター、芸術史研究者。最近数年間、彼の仕事は中国の現代美術史の再叙述と革新的な想像力に焦点を当て、そのグローバル化時代における合法性と断裂性の根源を探究している。この仕事の核心は、「1949年以降」の現代的な文脈から芸術の生産を再構築し、その衰退と無意味な二重の顔を持つ限界、状況の糸口、無意識のエネルギーを描写し、反体制的な実践を批判的に展開し、芸術の今日の立場と可能性を再定義することである。彼は過去にテート·モダン、マンチェスター華人芸術センターなどでセミナーに参加したり、主催したりした。2017年から2020年まで、彼は北京中間美術館のシニアキュレーターを務めた。彼が企画した展示には深圳彫刻ビエンナーレ(深圳OCAT、2012年)、「前例なし:1986年以来の香港ビデオとニュー·メディア·アート実践」(香港Videotage、2016年)と「動情:1949年以降の変局における感情と芸術の概念」(北京中間美術館、2019年)などがある。