top of page

X⁵|ARTiX³ 在日若手中国人アーティスト支援プロジェクト

出展アーティスト:(展示スケジュール順)

何梓羽、史子涵、安布鲁瑪、諸薪旭、聶澤文

 

 

主催‧企画:ARTiX³

共催:一般社団法人日本国際文化芸術協会

ディレクター:許力静(ARTiX³)

《X⁵》は、「始まり」をテーマとした展覧計画であり、勇気と実験の実践、そして日本に留学する若手中国人アーティストを支援するプロジェクトです。5人の若手アーティストが異国の文化的背景の中で自らの芸術的言語を模索し、インスタレーション、日本画、イラストレーション、パフォーマンス、写真といった多様なメディアを通じて自身の文化的立場を探求し、独自の世界観を構築します。本計画は、彼女/彼らの多くにとって初の個展であるだけでなく、日本で活動する若手中国人アーティストたちによる集団的な発信であり、時代の交差点に立つ彼女/彼ら自身の総括でもあります。

 

かつて私自身もこのコミュニティの一員でした。日本で芸術を志す者なら誰もが、来日当初の緊張、不安、そして高揚感を経験したことでしょう。異国で創作活動を行うことは、技術の鍛錬にとどまらず、アイデンティティの問い直し、文化の融合と対立、個の表現と社会の現実とのせめぎ合いを伴います。彼女/彼らの作品は、個人の経験の投影でありながら、同時に現実社会への響きでもあります。現実と虚構の境界、夢の広がり、身体の感覚、社会システムの光と影——それぞれのアーティストが自身の時代と置かれた状況に異なるアプローチで応答しています。このコミュニティは、いまだ社会の中心的な関心を集める存在ではないかもしれません。しかし、彼女/彼らの思索と創作は確かに見るべき価値があります。これは単なる個人の表現ではなく、「留日」という特異な経験——文化への適応と抵抗、漂う帰属意識、揺れ動くアイデンティティ——に関わるものだからです。

 

本展覧プロジェクトの会場である東京のオルタナティブ·アートスペース「ARTiX³」は、その名称が示す通り、「探求」と「つながり」をテーマに掲げています。若手アーティストを支援する実験的な場であると同時に、新たな表現を生み出すプラットフォームでもあります。「X」は未知·未定義·無限の可能性を象徴するとともに、「expression(表現)」の一文字を取って、アートが個と世界をつなぐ手段であることを示しています。また、「X」の交差する2本の線は「つながり」と「交差点」を意味し、空間の開放性と融合を象徴しています。「³」は立体的な広がりを生み、アートが多層的な対話の中で成長することを表しています。

《X⁵》はまさにこの理念を体現する展覧プロジェクトです。異なる背景を持つ5人の若手アーティストが、異文化が交差するこの地で、自らの芸術的言語を通じてアイデンティティ、現実、表現の境界を探求します。彼女/彼らの作品は「X」のように予測不能でありながら、出会いと衝突の中で新たな可能性を模索し、自らの世界観を築き上げていきます。本展覧プロジェクトは単なる個々の創作の発表ではなく、集団的な対話の場でもあります。アートという媒介を通じ、多次元的な空間の中で交差し、融合し、「留日」という経験に関する独自の表現を広げていく試みなのです。

この「ARTiX³ 留日青年アーティスト支援プロジェクト」を通じて、彼女/彼らの作品が「出会われる」こと、そしてこのコミュニティの成長により多くの関心が寄せられることを願っています。本展覧プロジェクトは、小規模な個展をリレー形式で開催する形を取り、各アーティストが「ARTiX³」で順次個展を行います。これは彼女/彼らにとって新たな芸術的探求の場であり、同時に継続的な対話の場でもあります。個々の経験が時間軸の中で交錯し、最終的にはこのコミュニティ全体の共鳴へとつながっていくのです。

——許力静

[ 展示スケジュール]

4月5日ー4月13日 何梓羽《リアリストが追放地にて》

4月19日ー4月27日 史子涵《仮住まい》

5月1日ー5月6日 Amber Ma《イチジク少年》

5月10日ー5月18日 諸薪旭《感覚の織り合わせ》

5月20日ー6月1日 聶澤文《19:00―23:00》

[ 関連イベント]

【6月1日】

アーティスト·ラウンドテーブル(オンライン)出展アーティストが自身の制作経験を共有し、在日若手中国人アーティストの集団的な発信の必要性について議論します。

会場:ARTiX³  1F·2F

住所: 〒110-0003 東京都台東区根岸3-13-1

《リアリストが追放地にて》

2025年4月5日(土)- 4月13日(日)

​​​​​​アーティストについて

何梓羽は中国·四川省出身。北海道大学大学院国際広報メディア研究科を修了後、日本のエネルギー関連の製造業企業で3年間勤務した。その後、武蔵野美術大学大学院彫刻専攻に進学し、現在に至る。これまでに「国際瀧富士美術賞」優秀賞(2023年)、「TOKYO MIDTOWN AWARD 2024」優秀賞などを受賞。

 

展覧会について

アーティスト何梓羽による本展《リアリストが追放地にて》は、現代におけるリアリズムと逃避、制度と異化空間の構造をめぐるインスタレーション作品を通して、現実と虚構の交錯する場を構築します。

中心となる新作インスタレーションは、フランツ·カフカの短編小説『流刑地にて(In der Strafkolonie)』から着想を得ています。作品内では、精巧に構築された処刑装置が異様な静けさの中で語られますが、その異常性が制度の一部として無批判に受け入れられている点に焦点が置かれます。何はこの小説が描く空気感をもとに、工業素材、金属フレーム、網構造、機械的な部品などを用いた装置的空間を構築。観客はその中を身体的に通過しながら、秩序と不条理の混在、視覚と制度のズレを経験することになります。

本展は、逃避でも帰属でもない「追放地」において、リアリズムがどのように矛盾と向き合うのかを問う試みであり、鑑賞者に自身の立ち位置を測り直すことを促す空間でもあります。

1995年東京生まれ。2017年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、渡仏。エコール‧ルサージュにて刺繍を学ぶ。2022年東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。​​

《仮住まい》

2025年4月19日(土)- 4月27日(日)

​​​​​​アーティストについて

史子涵は中国·山東省出身。上海大学上海美術学院で中国画を専攻し学士号を取得。多摩美術大学大学院で日本画を学び修士号を取得後、愛知県立芸術大学大学院にて日本画を研究し博士号を取得。2023年「正弦波 - ニューウェーブ青年現代水墨招待展」(ZHI ART SPACE)、「HI21 - 10周年新鋭アーティストマーケット」(798芸術工場)参加、2024年「博士後期課程学位論文·作品展」(SA KURA AUA Gallery)参加。

 

展覧会について

本展では、史子涵が日本での生活において「仮住まい」によるフラストレーションを感じたことをきっかけに、ご自身の帰属意識について考察されました。

ペースの速い都市生活、絶え間なく流れる時間、不安定な居住環境などにより、常に不安に包まれているように感じられます。「家」はかつてのような安定した拠点ではなく、移ろいやすい仮の住まいとなり、そこに暮らす人々の心にも、わずかながら疎外感を刻みつけています。そのような環境の中で、「私たちは本当にどこかに属しているのだろうか」という問いが浮かび上がります。

この「仮住まい」は、私たちに何をもたらすのでしょうか。また、それによって私たちは何を失うのでしょうか。努力を重ねて築いたこの生活は、自己実現の基盤となるのでしょうか。それとも、自由を制限するものなのでしょうか。流動的な環境の中で、個人のアイデンティティはどのように形成されるのか。史は、日常の経験を出発点として、「仮住まい」がもたらす心理的な影響や、現代社会における住居と帰属の関係について、作品を通じて表現しようと試みております。

《イチジク少年》

2025年5月1日(木)- 5月6日(火)

​​​​アーティストについて

Amber Maは、中国·天津市出身。ニューヨーク視覚芸術学院(SVA)のイラストレーション·ヴィジュアルエッセイ専攻にて修士課程を修了後、現在は筑波大学でビジュアルデザインを研究。中国·アメリカ·日本を拠点に幅広く活動し、エミー賞受賞歴のある脚本家と共作した『九龍城寨三部作』をフランスで出版。また、中国では長編漫画『芦花とポッチャリ鳥の森』のほか、著名な作家との共著による絵本『ウイルスのささやき』や『しっぽを探す魚』などを発表。作品は3×3、Creative Quarterly、American Illustration Society、ADCなどの国際的なコンペティションに入選。

 

展覧会について

Amber Maは、「すべての筆致には物語が宿り、すべてのキャラクターには生命が息づいている」と信じ、描くことによってそれぞれに独自の感情と魂を与えています。本展では、「イチジク少年」が箱庭の中で遊び、抑えきれない夢の広がりに没入していく様子を描いています。少年の幻想は植物のように無秩序に伸び、しなやかでありながらも執拗に世界を満たしていきます。本シリーズでは、夢の持つ不条理さや不可解さを捉え、現実と幻想が交錯する中での繊細で制御不能な状態を表現しています。

作品に漂う独特の視覚言語が、異文化の経験を通じて、どこか懐かしくも未知の夢の世界を形作っています。本展を通じて、鑑賞者の皆様を「少年の幻想の次元」へと誘い、現実の枠を超えたもうひとつの可能性を感じていただければ幸いです。

《感覚の織り合わせ》

2025年5月10日(土)- 5月18日(日)

アーティストについて

諸薪旭(Vera Moro)は、中国·北京出身。中央戯劇学院舞台美術学科を卒業後、現在は武蔵野美術大学大学院にて写真·映像を研究。2022年には北京·520ギャラリーにてパフォーマンスアート作品『外向的独白』を発表、2023年にはARTiX³アートスペースのグループ展『X⁹|SOFT OPEN EXHIBITION』に参加し、2025年には、日本における第1回留学生展『捕捉瞬間』に出展。

 

展覧会について

諸薪旭の創作は、極めて繊細な共感の瞬間から始まり、身体を通して「他者」に触れることによって展開されます。柔らかさ、敏感さ、鋭さ、あるいは戸惑いながらの感覚。それらが身体という媒介を通じて増幅され、毛穴が開き、情報が交錯しながら双方向に流れ込んでいきます。あらゆる接触は、自身と他者の境界を探る行為であり、他者の存在を通して自らを確認し、再構築する試みでもあります。

「継続する共感と経験の中で自己を確立する」――これこそが、諸薪旭が行為芸術(パフォーマンスアート)を通じて追求するテーマです。現代社会では、人々の同質化が進み、その根本には「感覚の偏り」があると考えられます。視覚優位の情報環境において、個々の意識は似通ったコンテンツに埋没し、思考が均一化していきます。さらに、ビッグデータによる精密なアルゴリズムが「親しみやすさ」を演出し、安全な環境の中で世界を捉える感受性を徐々に奪い、最終的には受動的な存在へと導いてしまうのです。

フランスの哲学者モーリス·メルロ=ポンティは『知覚の現象学』において、「身体は単なる感覚の媒介ではなく、世界と共存するための紐帯である」と述べています。諸薪旭は、この考えを基盤に、他者の視点に身を置き、自然や異なる次元の知覚を通じて、五感の認識体系を再構築しようと試みます。これは単なる「発見」から「提示」への移行ではなく、「時間の再創造」という意味も含んでいます。時間はもはや個人にとって線的な経験ではなく、絡み合い、浸透し、流動する知覚の状態として存在するのです。そして、他者の感覚を通じて私たちの自己もまた、より明確なものとなります。

すべての触れ合い、すべての相互作用は、他者の存在を鏡として自己を映し出す行為です。自己は流動的であり、交わりのたびに確認され、また再構築される。そして、個人の認識の境界を超えようと試みます。あるいは、それは「1」から「0」へと限りなく近づく過程とも言えるでしょう――すなわち、既存の認識を解体し、全く新たな経験へと開かれていくこと。そのために、テキスト、形式、時間、さらにはあらゆる表象を削ぎ落とし、観る者が一時的に現実から距離を置くことで、他者を通して自身の真の存在を垣間見ることができるのではないでしょうか。

《19:00―23:00》

2025年5月20日(火)- 6月1日(日)

アーティストについて

聶澤文は、中国·江西省出身。西北大学芸術学院を卒業後、東京造形大学大学院にて写真を専攻し、さらに東京藝術大学大学院にて先端芸術表現を研究し博士号を取得。2020年には「T3 STUDENT PROJECT」を受賞。

 

展覧会について

本展は、近年中国で急速に広がる「発光都市」現象に焦点を当てた作品群を展示いたします。都市の建築群が夜になると一斉にライトアップされ、壮大な光のショーを繰り広げるこの現象は、地方政府にとって経済発展と技術革新の象徴とされています。しかし、この華やかな光景の裏には、そこで暮らす人々の日常が存在します。

2020年、中国の前首相·李克強氏は記者会見で「中国には月収1,000元(約2万円)以下で生活する人が6億人いる」と発言しました。経済的に厳しい現実と、きらびやかな都市の夜景との間には、大きなコントラストがあります。さらに、コロナ禍以降の経済低迷や不動産危機の深刻化により、光り輝く都市景観と実際の社会との乖離はますます広がっています。

「19:00―23:00」というタイトルは、こうした発光建築が主に点灯される時間帯を示しています。私は上海、青島、西安、武漢、長沙、南昌、広州、深圳、厦門といった大都市を巡るとともに、故郷の吉安やその他の小都市も訪れました。本展では、それらの都市の夜景を通じて単なる光の美しさを描写するのではなく、「この光の向こうに隠された現実とは何か?」という問いを投げかけます。

bottom of page